3次元で歌詞を読む

曲の歌詞の持つ意味を自己流で深読みして解釈しています。


『いちご白書』をもう一度 


 

 『いちご白書』をもう一度 歌手:バンバン 作詞:荒井由実

 歌詞はこちらで。

 1975年8月リリース、バンバン5枚目のシングル。バンバンとしては唯一のオリコン1位獲得曲です。作詞・作曲は荒井由実(松任谷由実)。ヒット曲に恵まれず行き詰まっていたばんばひろふみがユーミンの曲に感銘を受け、伝を頼ってユーミンに辿り着き、書いてもらった曲だそうです。

いちご白書をもう一度


 タイトルにある『いちご白書』は1970年に公開されたアメリカ映画で、1968年にコロンビア大学で実際に起こった学生紛争をもとに制作されたものです。

 昔恋人と観に行った映画に再会した男が、過ぎ去った学生時代を思い出しノスタルジックな気持ちになるという歌詞。ドラマチックで分かりやすい内容なだけに、色々な方がブログ等で様々な批評をされているのを見かけます。

 その中で、特に多い気がするのが2番のサビの部分に対するツッコミ。

就職が決まって 髪を・・・

 「先に髪を切ってからの就職活動だろ」「順番が違う」との意見を良く見かけます。確かに歌詞をそのまま見れば真っ当な意見です。しかし、あの天下のユーミンがそんな迂闊なミスをするでしょうか。

 個人的にどうしても納得がいかず、何度も何度もこのフレーズを反芻してみました。すると自分の中である解釈が出てきたのです。

 『就職が決まって』は正確に言うと『就職する事が決まって』だと思います。時代はちょうど『いちご白書』が公開された1970年。オイルショック直前、戦後高度経済成長の最後の頃です。日本もまだまだ好景気でイケイケだったと思われます。

 そんな中で、主人公の男性も最初から大学卒業後には親族、もしくは知り合いの会社に就職する事が決まっており、それに抗うように大学の4年間は、学生集会に出かけたり、ヒッピーの真似事をしていたのではないでしょうか。

 しかし自らの運命には逆らえずに、大学卒業間近になって観念し、決まっていた就職先に行く為に髪を切ってきた。

 自由を謳歌していると思っていた学生時代は、実は期間限定の幻のようなものであり、その時に付き合っていた恋人もその中のひとつに過ぎなかった。現実の壁を打ち破る勇気がなかった主人公が、歯がゆい気持ちと悔しい気持ちの中で出た言葉が『もう若くないさ』という言い訳だったと思います。

 もし就職活動の為の散髪だったなら、本人の就職したいという意思や希望が入っていますが、すでに決まっていた就職の為の散髪だとすると、そこにあるのは喪失感敗北感だけではないでしょうか。

 だからこのフレーズは、「順番が…」とツッコミを受けるような単純なものではなく、主人公の境遇や気持ちが読み取れる深いものだと思うのです。だって天下の荒井由実ですよ(笑)


 当時の学生にあった社会への反発や自由へのあこがれの象徴が長髪であり、それを切る事は、ある意味相撲の『断髪式』のようなケジメのような行為だったと思います。

 果たして、この主人公はそこで自分の青春時代にちゃんと決別できたのでしょうか。答えは“否”だと思います。

 最後のフレーズ…二人だけの・・・ どこかで・・・

 昔の恋人にも懐かしい映画を観る事で自分の事を思い出して欲しい。今を生きてはいても、心のどこかに蘇る甘酸っぱい記憶を忘れないでいて欲しいという願望が見える気がします。「青い」と分かってはいても、抑えられないもどかしさ。

 人は多かれ少なかれ、誰しもそんな想いを抱えています。その琴線に触れたのもオリコン1位を獲得した理由のひとつだと思います。




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冷たい雨 


 

 冷たい雨 歌手:ハイ・ファイ・セット 作詞:荒井由実

 歌詞はこちらで。

 1976年4月リリース、ハイ・ファイ・セット5枚目のシングル。前年に荒井由実がバンバンに提供した曲のカバー。他には倉田まり子もカバーしていましたが、個人的にはハイ・ファイ・セットのバージョンが一番好きです。

 何といってもボーカルの山本潤子は歌が上手です。声が綺麗というだけでなく、聞き取りやすい言葉のひとつひとつが命を吹き込まれて、聴き手の心に素直に入ってくる感じがします。

 時代が変わっても、曲もおしゃれで、まったく古い感じがしません。是非、Superflyあたりがカバーしてくれたらしっくりくるかなと思います。(風貌も似てるしね)

冷たい雨

 喧嘩をして出て行き、部屋に戻ったらもう別の女が居たというかなり残酷な内容の曲です。


 冷たい雨にうたれて 街をさまよったの もうゆるしてくれたって いい頃だと思った

 男女間によくありがちな喧嘩の風景です。彼女が「もう許してくれる頃」と想像するところからして、この二人はかなり親密な深い関係だと思います。これまで何度も喧嘩をし、仲直りをする事を繰り返してきた。その経験から「そろそろほとぼりが冷めて仲直りできる頃」だという確信があったのでしょう。

 そんな彼女の自信は次のフレーズで崩されてしまいます。

 部屋にもどって ドアをあけたら あなたの靴と だれかの赤い靴

 物語のセオリーが起承転結なら、この歌詞はそれを見事に裏切ってくれます(笑)1コーラスBメロでいきなりの「転」。

 いつものように仲直りをする為に部屋に戻った彼女。それなのに事もあろうか、彼は別の女を連れ込んでいる。喧嘩して興奮した心をクールダウンさせるはずだった雨は、この瞬間から「現実」という冷たさとなって彼女の肩に降り注ぎはじめたのですね。

 恐らく中の二人に声をかけることなく、彼女は部屋を飛び出したのでしょう。到底、気持ちの整理はまだまだ付けられるはずもなく、綺麗事を言う余裕すらありません。

 冷たい雨が降るたび あなたを思うでしょう 幸せにくらしてなどど 願えるはずもない

 これが今の彼女の本音ですね。結果的に自分を追い出す形になった二人に対して、幸せになって欲しいなんて思えるはずはないのです。

 考えたら、喧嘩になったのも彼の計算かもしれません。すでに彼の気持ちは別の女にあり、些細な事で因縁をつけて彼女が出て行くように仕向けた。そこには心変わりをした事を、はっきりと告げる男らしさも無く、傷つけまいとする為に自分が悪者になる優しさも感じられません。

 酷い男ですよね。

 彼女の名前 教えないでね うらむ相手は あなただけでいい

 恋人に浮気された場合、男は女を責め、女は浮気相手の女を責めるといいます。その方程式なら、彼がいくら酷い男でも、彼女は浮気相手の方を責めたくなるでしょう。しかし、あえて「名前を教えるな」と望むのは、彼女自身のプライドではないでしょうか。

 自分がいた場所に収まって、笑顔で暮らしている(だろう)女を恨むのは、あまりにも自分が悲しすぎる。酷い男だから、譲ってやったという位の「上から目線」にいる事が、今の彼女を支える唯一の力のような気がします。



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